「値上げしたら、お客様が離れてしまうのではないか。」

価格改定を考えたことのある経営者なら、一度は感じる不安だと思います。

僕自身も同じです。

長くお付き合いしているお客様であればあるほど、

「できるだけ負担を増やしたくない」

という気持ちは当然あります。

ただ、最近自社の経営と向き合う中で、強く感じていることがあります。

それは、

「安く提供し続けることが、本当にお客様のためなのか?」

ということです。

僕は、値上げそのものが良いとも悪いとも思っていません。

大切なのは、

提供している価値と価格が合っているか。

そして、その価格で良いサービスを持続的に提供できるかです。

利益がなければ、良いサービスは続けられない

良い人材を採用する。

社員を教育する。

給与を上げる。

AIやシステムに投資する。

新しいサービスを開発する。

お客様への対応時間を確保する。

すべて、お金が必要です。

もし提供しているサービスに対して十分な利益が残らなければ、

採用できない。
教育できない。
投資できない。
給与を上げられない。

そして最終的には、サービス品質に影響します。

つまり適正な利益を確保することは、

単に会社が儲けるためではありません。

良いサービスを長く提供し続けるためにも必要なこと

だと思っています。

「値上げ」ではなく「適正価格」を考える

「値上げ」という言葉を使うと、

同じものを、ただ高く売る。

そんな印象があります。

でも、実際の経営環境は変化しています。

人件費が上がる。

システム費用が上がる。

求められるサービスレベルが上がる。

業務範囲が増える。

専門性も求められる。

それなのに価格だけが10年前と同じであれば、どこかに無理が出ます。

だから僕は、

「いくら値上げできるか?」

ではなく、

「この品質のサービスを持続的に提供するための適正価格はいくらなのか?」

と考えた方が良いと思っています。

価格を考えるなら、まず「時間」を測る

ここで非常に重要になるのが、

実際にどれだけの時間を使っているか。

です。

例えば年間100万円の売上があるお客様が2社あったとします。

A社には年間50時間。

B社には年間200時間。

同じ売上100万円でも、経営的な意味はまったく違います。

しかし売上一覧だけを見ていると、どちらも「100万円の顧客」です。

そこで見るべきなのが、

実質時間単価

です。

売上を、その仕事に実際に投入した時間で割る。

すると、

「売上は大きいけれど、ほとんど利益が残っていない」

「売上規模は小さいけれど、高い価値を効率的に提供できている」

といったことが見えてきます。

僕たち自身も、価格やサービス内容を見直す際には、まず顧客ごとの投入時間を見るようにしています。

一定期間、例えば3か月程度しっかり時間を測る。

そのうえで判断する。

感覚だけで価格を決めないことが重要です。

時間単価が低いからといって、すぐ値上げしてはいけない

ここも重要です。

「時間がかかっている。だから値上げしよう。」

ではありません。

なぜ時間がかかっているのかを先に考えます。

自社の業務フローが悪いのかもしれない。

社員のスキル不足かもしれない。

二重入力が発生しているかもしれない。

資料のやり取りに時間がかかっているのかもしれない。

契約時に決めた範囲を超えて、追加業務を無償で引き受け続けているのかもしれない。

原因が自社にあるのであれば、まず自社が改善すべきです。

AIやシステムで効率化する。

業務フローを変える。

サービス範囲を明確にする。

資料の受け渡し方法を変える。

それでも適正な利益を確保できないのであれば、

初めて価格改定という選択肢が出てきます。

価格を上げる前に、価値を上げる

価格改定には覚悟が必要です。

「会社の利益が足りないので値上げします。」

それだけでは、お客様から理解していただくことは難しいでしょう。

だから僕たち自身も、

価格を上げるなら、それ以上に価値を上げる。

ということを大切にしています。

専門性を上げる。

スピードを上げる。

提案の質を上げる。

経営者との対話を増やす。

数字を作るだけではなく、経営判断につながる情報を提供する。

AIを使って単純作業を減らし、その分、経営者との対話に時間を使う。

お客様に、

「このサービスなら、この価格は当然だよね」

と思っていただける状態を目指す。

価格改定は、お客様だけに負担をお願いするものではありません。

サービス提供者側にも、

「もっと良い仕事をする」

という約束が必要だと思っています。

すべてのお客様に同じサービスを提供する必要はない

会社の時間には限りがあります。

だから、

誰に、
何を、
どこまで、
どんな価格で提供するのか。

を明確にする必要があります。

すべてのお客様に同じサービスを、同じ価格で提供する必要はありません。

シンプルなサービスを求める方には、シンプルなプラン。

財務や経営まで深く相談したい方には、より付加価値の高いサービス。

会社の成長ステージやニーズに合わせて、サービスを分ける。

これも重要な価格戦略です。

値上げによって生まれた利益を、何に使うのか

価格改定を考えるとき、もう一つ大切なのが、

「増えた利益を何に使うのか」

です。

社員の給与に還元する。

教育に使う。

AIやDXへ投資する。

優秀な人を採用する。

サービス開発に使う。

財務基盤を強くする。

そうやって生まれた利益が、最終的にまたお客様への価値となって返っていく。

この循環ができれば、価格改定は単なる値上げではありません。

会社と顧客が長く良い関係を続けていくための投資

になります。

「安い会社」ではなく「価格以上の価値を提供する会社」へ

価格が安いこと自体は、一つの競争戦略です。

ただ、すべての中小企業が価格競争をする必要はありません。

自社にしか提供できない価値を磨く。

その価値を必要としている顧客に届ける。

その対価として適正な価格をいただく。

そして得られた利益を、人とサービスに再投資する。

僕は、

「安い会社」ではなく「価格以上の価値を提供する会社」

を目指したいと思っています。

これは僕たち自身にも言い聞かせていることです。

値上げするか、しないか。

その前に、

「自社はどんな価値を提供しているのか?」

「その価値と今の価格は合っているのか?」

「今の価格で、5年後も同じ品質を提供できるのか?」

一度考えてみてはいかがでしょうか。

価格は単なる数字ではありません。

誰に、どんな価値を、どんな品質で提供していく会社なのか。

その会社の経営そのものが表れる数字だと思っています。

よくあるご質問

Q. 値上げをすると顧客離れが起きませんか?

可能性はあります。だからこそ、一律に価格だけを上げるのではなく、提供価値、業務範囲、投入時間、採算性を確認したうえで判断することが重要です。

Q. 適正価格はどうやって決めればいいですか?

まず原価や人件費だけでなく、顧客別の投入時間を把握します。そのうえで必要な利益、提供価値、市場価格、自社の専門性などを総合して決定します。

Q. 値上げの前にやるべきことはありますか?

まず業務効率化の余地を確認することをおすすめします。自社の非効率をそのまま顧客に転嫁するのではなく、業務改善、サービス範囲の整理、価値向上を行ったうえで価格を検討することが重要です。



監修:公認会計士・税理士 力丸 宣康

新日本有限責任監査法人を経て独立。現在、力丸公認会計士事務所所長、九州有限責任監査法人理事長。上場企業グループの社外監査役等を務めながら、中小企業の税務・会計・財務・経営支援に取り組む。

自身の事務所経営でも、人時生産性、価格戦略、サービス設計、AI活用などの経営改革を実践している。