「あなただから、と言われ続けることに疲れてしまいました。」
14年間、事務所を経営してきた中で、今でも強く残っている言葉があります。
僕が心から信頼していたスタッフから言われた言葉です。
本当に真面目で、事務所の理念にも共感し、一生懸命頑張ってくれていました。
お客様からの信頼も厚く、僕自身、
「何があっても、この人のことは自分がどうにかする」
くらいに思っていました。
だからこそ、この言葉を聞いたときは本当にショックでした。
そして何より、
そこまで言わせてしまったことを強く後悔しました。
「あなただから」は、信頼の言葉だった
「あなただからお願いしたい。」
「あなたなら大丈夫。」
「あなたに任せれば安心。」
一つひとつは、信頼の言葉です。
経営者としても、安心して任せられる社員がいることは本当にありがたい。
本人も、
期待される。
頼られる。
結果を出す。
それが嬉しい時期もあったと思います。
そして、また期待される。
また仕事が集まる。
僕たちも、
「この人なら大丈夫」
と思って、さらに任せる。
悪意なんてありません。
むしろ、お互いに良い仕事をしたいと思っていました。
でも、その積み重ねが、
いつの間にか
「あなたにお願いしたい」から、「あなたでなければならない」
に変わっていたのだと思います。
優秀な人が頑張ることは、悪いことではない
ここはすごく大切にしたいところです。
僕は、
人より頑張ることが悪いとは全く思っていません。
意欲の高い人が、
もっと成長したい。
難しい仕事に挑戦したい。
もっと良い仕事がしたい。
そう思うことは素晴らしいことです。
会社としても、その意欲は大切にしたい。
だから、
「頑張らなくていい」
「みんな同じくらいでいい」
という話ではありません。
問題なのは、
その人が頑張り続けることを前提にしないと、会社が回らなくなること。
です。
本人の
「もっと頑張りたい」
が、
いつの間にか
「自分が頑張らなければならない」
に変わってしまう。
僕たちがつくってはいけないのは、そういう状態だと思っています。
優秀な人ほど、問題を見えなくしてしまう
責任感の強い人ほど、多少無理をしてでも仕事を終わらせます。
困っている人がいれば助ける。
お客様にも応える。
そして、
「自分でやった方が早い」
となる。
その結果、仕事は回ります。
お客様にも迷惑がかからない。
数字上も大きな問題は見えない。
だから経営側も、
組織に無理が起きていることに気づきにくい。
これが怖いところです。
仕事が回っていることと、
組織が健全であることは、
同じではありません。
僕はこの経験から、
頑張ってくれている人に、さらに頑張ってもらうことで問題を解決してはいけない。
と強く思うようになりました。
高い基準が、周りを苦しくすることもある
もう一つ、組織を見ながら考えるようになったことがあります。
優秀な人ほど、自分に求める基準が高い。
「もっと良くしたい。」
「ここまでやるべき。」
「お客様のためには、これくらい当然。」
その思い自体は素晴らしいものです。
でも、
「こうあるべき」
が強くなりすぎると、
いつの間にかその基準が周りにも向いてしまうことがあります。
悪気はありません。
むしろ、会社を良くしたいからこそです。
ただ、周りの人からすると、
何をやっても足りない。
自分は全然できていない。
そんな気持ちになることがあります。
そして、
挑戦する前から萎縮してしまう。
前向きに取り組む気持ちまで失われてしまう。
それでは、チームとして強くなれません。
僕は、
一人の100点によって、周りの70点が否定される組織にはしたくない。
と思っています。
70点だった人が75点になる。
75点だった人が80点になる。
その成長も、ちゃんと認められる。
100点を目指す人は、もっと上を目指せばいい。
それぞれが前向きに成長できる方が、長い目では強いチームになると思っています。
「できる人」に任せ続けるのが、一番簡単
経営者からすると、
任せられる人に任せるのが一番簡単です。
失敗しにくい。
仕事も早い。
お客様にも安心してもらえる。
僕自身も、そうしてきました。
でも、それを繰り返すと、
できる人に、さらに難しい仕事が集まる。
忙しいから、人を育てる時間がなくなる。
周りも、
「分からなければあの人に聞けばいい」
となる。
気づけば、
その人がいないと判断できない、その人がいないと回らない。
そんな組織になります。
これは、その人の問題ではありません。
組織の構造の問題です。
だから、
「もっと優秀な人を採ろう」
だけでは解決しない。
仕組みそのものを変えなければ、新しく入った優秀な人にも、いずれ同じことが起こります。
人を増やす前に、仕事と権限の流れを変える
必要なのは、
優秀な人が頑張り続けなくても成果が出る会社に変えることだと思っています。
仕事を標準化する。
情報をチームで共有する。
判断基準を明確にする。
AIや仕組みに任せられるものは任せる。
そして、少しずつ他のメンバーにも任せていく。
特に大切なのが、
権限移譲です。
ただ、
「今日からあなたが判断してください」
では、任せたことにはなりません。
何を大切にするのか。
どこまで自分で決めていいのか。
迷ったら何を基準にするのか。
失敗したときはどうするのか。
そこまで共有して、
初めて自分で判断できるようになります。
僕は、
権限移譲とは、仕事を渡すことではなく、判断できる状態をつくること
だと思っています。
優秀な人には「もっと仕事」ではなく、「もっと影響力」を
だから今は、
優秀な人にもっと仕事を集めるのではなく、
その人が持っている力を、
チーム全体に広げてもらう
ことが大切だと思っています。
どう考えているのか。
どう判断しているのか。
なぜその品質になるのか。
それを共有する。
困っている人の仕事を代わりにやるのではなく、
その人が次は自分でできるように支援する。
個人として成果を出せる人が、
周りの人まで強くできるようになる。
ここまでいくと、その人自身もまた次のステージへ進めると思っています。
そして、これは僕自身にも返ってくる
「自分でやった方が早い。」
僕自身、何度も思います。
実際、その場だけ見れば早いです。
でも、
ずっと僕が判断していたら、組織はいつまでも僕に依存したままです。
リーダーも同じです。
自分が説明した方が早い。
自分で直した方が確実。
でも、
目の前の仕事を早く終わらせることと、組織を強くすることは同じではない。
任せる。
待つ。
失敗する。
一緒に振り返る。
また任せる。
正直、もどかしいです。
でも、
人が育つ時間を待てなければ、
いつまでも一部の人が頑張り続ける会社から抜け出せません。
あの言葉を、忘れないようにしたい
「あなただから、と言われ続けることに疲れてしまいました。」
僕にとって、あの言葉は大きな反省になりました。
信頼していた。
期待していた。
だから任せた。
それ自体が悪かったとは思いません。
でも、
信頼や期待も、相手の余力を超えれば負担になる。
そして、
その人が頑張ってくれているからといって、
その状態に甘えてはいけない。
経営側が、
「この人がいれば大丈夫」
ではなく、
「この人がいなくても大丈夫な組織を、どうつくるか」
まで考えなければならない。
僕はそう思うようになりました。
「最高の仲間」と「最高のチーム」は、同じではない
僕たちは今、
最高の仲間と最高のチーム
をつくりたいと思っています。
でも、最高の仲間が集まれば、自動的に最高のチームになるわけではありません。
頑張りたい人が、思い切り挑戦できる。
まだ経験の浅い人も、前向きに成長できる。
困ったときには、お互いに支え合える。
そして、
誰か一人が無理をし続けなくても、ちゃんと成果が出る。
そんな状態をつくるのが、経営側の仕事だと思っています。
僕自身も、まだまだ途中です。
14年間やってきても、
組織づくりは本当に難しい。
でも、あの一言から学んだことだけは忘れたくありません。
優秀な人が頑張ることは悪くない。
でも、その頑張りに依存する組織にはしない。
そして、
高い基準を持つ人も、
これから成長する人も、
一人ひとりが前向きに力を発揮できる会社へ。
僕は、そんなチームをつくりたいと思っています。
もし今、
「あの人がいないと回らない」
という仕事があるなら、
その人にもっと頑張ってもらう前に、
なぜ、その人にしかできない状態になっているのか。
一度、組織の側から考えてみる。
人の問題に見えて、
実は構造の問題かもしれません。
これが、僕自身の経験から一番伝えたいことです。
監修:公認会計士・税理士 力丸 宣康
新日本有限責任監査法人を経て独立。現在、力丸公認会計士事務所所長、九州有限責任監査法人理事長。中小企業の税務・会計・財務・経営支援に取り組む。
自身も組織経営を行う中で、権限移譲、業務標準化、生産性向上、AI活用、人材育成などに取り組みながら、「最高の仲間と最高のチーム」を目指している。
