「お客様は、みんな大切にする。」
当たり前のことのように聞こえます。
僕自身、ずっとそう思ってきました。
せっかく僕たちを選んでいただいた。困っているなら力になりたい。相談されたら、できる限り応えたい。
そうやって14年間、事務所を経営してきました。
そして今でも、その気持ちは変わっていません。
ただ、組織が大きくなり、お客様も増えていく中で、一つ考えるようになったことがあります。
すべてのお客様を大切にすることと、すべてのお客様に同じだけ時間を使い、何にでも応えることは違う。
ということです。
「お客様のためになるなら」が、僕たちの原点だった
会社が小さい頃は、僕自身が本当にいろいろなことに対応していました。
税務の相談、資金繰り、経営の悩み、ちょっとした確認。
本来の契約範囲を超えるようなことでも、
「お客様のためになるなら。喜んでいただけるなら!」
と思って対応する。
僕自身、それがすごく嬉しかったんです。
やればやるほど喜んでいただける。頼っていただける。「ありがとう」と言っていただける。
そして、
「これこそ仕事のやりがいだ」
と感じていました。
今振り返っても、この考え方が悪かったとは全く思っていません。
むしろ、今のRICKのサービスの原点には、この気持ちがあると思っています。
お客様の役に立ちたい。
期待された以上のことをしたい。
困っている経営者がいたら、一緒に考えたい。
この気持ちは、これからも絶対に失いたくありません。
ただ、会社が成長し、お客様が増え、僕一人ではなく組織でサービスを提供するようになると、同じやり方だけでは続かなくなってきました。
一つの「喜んでもらえた」の裏側に、誰かの時間がある
一つひとつは小さな依頼でも、積み重なると大きな時間になります。
そして、その時間は必ず誰かが使っています。
担当者が忙しくなる。
本来やるべき仕事が後ろにずれる。
面談の準備に十分な時間を使えなくなる。
新しい提案を考える余白がなくなる。
前回の記事では、
「優秀な人に仕事が集まり続ける組織は、いつか壊れる。」
という話を書きました。
実は、今回の話もつながっています。
経営側が、
「お客様のためだから。」
と何でもYESと言えば、最後は社内の誰かがその仕事を引き受けることになります。
目の前のお客様に喜んでいただくことは、もちろん大切です。
でも同時に、
会社全体として、すべてのお客様に良いサービスを届け続けられる状態をつくる。
そこまで考えることも、経営者の責任だと思うようになりました。
時間は、サービス業にとって最も限られた経営資源
お金なら、場合によっては借りることができます。
人も、時間をかければ採用できるかもしれません。
でも、一日は24時間です。
誰かがある仕事に1時間使えば、その1時間を別のことには使えません。
当たり前の話ですが、サービス業を経営するうえでは、とても重要なことです。
僕たちが提供しているのは、申告書や試算表をつくることだけではありません。
数字を見る。
課題を考える。
未来を一緒に考える。
経営者と対話する。
意思決定を支援する。
そこまでやろうと思えば、ちゃんと時間が必要です。
だから、
誰に、何のために、どれだけ時間を使うのか。
これは、サービス業における重要な経営判断だと思っています。
大切なのは「お客様を選ぶこと」ではない
ここは、一番誤解されたくないところです。
利益が少ないお客様は大切にしなくていい。
対応に時間がかかるお客様はお断りすればいい。
そういう話ではありません。
僕が大切だと考えているのは、
「自社のサービスを求めている方は、どんな人なのか?」
そして、
「その方に、自分たちはどんなサービスを提供するのか?」
を言語化しておくことです。
同じ「税理士を探している経営者」でも、求めているものは違います。
正確な税務申告を求める方。
毎月数字を見ながら経営について一緒に考えてほしい方。
資金繰りや財務まで相談したい方。
将来の事業や組織まで含めて伴走してほしい方。
求めているものが違えば、提供するサービスも違っていい。
必要な時間も、関わり方も、料金も違っていい。
大切なのは、
誰の、どんな悩みに対して、自分たちはどんな価値を提供する会社なのか。
そこを明確にしておくことだと思います。
お客様との「期待値」を合わせる
例えば、
お客様は、
「ここまで相談できると思っていた。」
一方で、こちらは、
「そこは契約外だと思っていた。」
これでは、お互いに幸せではありません。
逆もあります。
実はお客様はそこまで求めていないのに、こちらが必要以上のサービスを提供している。
その結果、価格も工数も合わなくなる。
だからこそ、
お客様が求めていることと、自分たちが提供するサービスをきちんと合わせる。
必要なら、サービス内容を変える。
関わり方を変える。
役割分担を見直す。
料金も見直す。
僕は、
価格だけではなく、関係全体を整えていくこと
が大切だと思っています。
値上げは「もっとお金をください」だけではない
最近、僕たちは料金についてもかなり見直しています。
その理由は、単に利益を増やしたいからではありません。
適正な料金をいただくことで、必要な人員を配置できる。
教育に投資できる。
AIやシステムにも投資できる。
そして何より、
お客様一社一社に、ちゃんと向き合う時間を確保できる。
以前の記事でも書きましたが、価格はサービスを継続するための土台です。
安く受け続けて、現場が疲弊する。
余裕がなくなる。
結果として品質が落ちる。
それでは、お客様のためにもなりません。
だから必要なら、料金を変える。
サービスを変える。
業務のやり方を変える。
役割分担を変える。
値段だけを見るのではなく、提供するサービス全体を見直す。
そこが大切なのだと思っています。
「何でもやります」が、最高のサービスとは限らない
以前の僕は、
「それは僕たちの仕事ではありません。」
と言うことに、かなり抵抗がありました。
せっかく相談していただいたのだから、できる限り力になりたい。
その思いは今もあります。
でも、自分たちが十分な品質を出せない仕事まで抱える。
もっと適した専門家がいるのに、自分たちだけで対応する。
現場に無理が出ているのに、そのまま続ける。
これも違うと思うようになりました。
大切なのは、何でも自分たちでやることではなく、
そのお客様にとって一番良い方法を考えること。
場合によっては、別の専門家と一緒に支援する。
業務のやり方を変える。
サービスを組み替える。
「できることを増やす」と同じくらい、
「自分たちは何を提供する会社なのか」を明確にすること
も大切だと思っています。
本当に大切なのは「誰と、どんな未来をつくるのか」
僕たちのMissionは、
「孤独な経営者と、想いを共有する。」
です。
このMissionを本気で実現しようと思えば、単純にお客様の数を増やせばいいわけではありません。
一社一社の経営者と、数字だけではなく、
これからどんな会社にしたいのか。
何を大切にしたいのか。
何に悩んでいるのか。
そこまで話せる関係をつくりたい。
でも、担当者が常に時間に追われていたら、そんな対話はできません。
だから最近は、
「何社のお客様がいるか」だけではなく、「どれだけ深く価値を届けられているか」
を大切にしたいと思っています。
「すべてのお客様を大切にする」の意味が変わった
今でも、すべてのお客様を大切にしたい。
この気持ちは全く変わっていません。
でも、「大切にする」の意味は少し変わりました。
何でも無料で対応することではない。
すべての依頼にYESと言うことでもない。
すべてのお客様に同じサービスを提供することでもない。
その方が何を求めているのかを理解する。
そして、
自分たちは何を提供する会社なのかを明確にする。
そのうえで、必要な価値を、適正な価格と適切な方法で届ける。
僕は、それこそが
「お客様を大切にする」
ということなのではないかと思うようになりました。
想いを捨てるのではなく、仕組みに変える
創業当時の、
「お客様のためになるなら、できる限りやろう。」
という気持ちは、これからも大切にしたい。
むしろ、その気持ちがあったからこそ、今のRICKがあると思っています。
ただ、僕一人の善意や、誰か一人の頑張りに頼るのではなく、
その想いを、組織として持続できる仕組みに変えていく。
誰に、どんな価値を届けるのか。
どこまでを自分たちが担うのか。
どんな品質を約束するのか。
そのために、どれだけの人と時間を使うのか。
そこまで考える。
これが、会社が成長した今の僕たちに必要な経営だと思っています。
すべてのお客様を大切にしたい。
14年前も、今も、その想いは変わりません。
だからこそ、
誰に、どんな価値を届ける会社なのかを明確にする。
そして、約束した価値をちゃんと届け続ける。
お客様にも、働く仲間にも無理をさせない。
そして、お互いが
「この会社と付き合っていて良かった」
と思える関係をつくる。
僕は、そんな会社にしていきたいと思っています。
もし今、
「このお客様へのサービス、本当に今のままでいいのかな。」
と感じることがあっても、
単純に、
「このまま続けるか、お断りするか」
で考える必要はないと思います。
価格を変える。
サービスを変える。
関わり方を変える。
役割分担を変える。
まず、
お互いにとって、もっと良い関係はないか。
そこから考えてみる。
顧客との関係も、会社の成長に合わせて進化させていい。
僕自身、14年間経営してきて、今はそう考えています。
監修:公認会計士・税理士 力丸 宣康
新日本有限責任監査法人を経て独立。現在、力丸公認会計士事務所所長、九州有限責任監査法人理事長。中小企業の税務・会計・財務・経営支援に取り組む。
