―「任せたい。でも任せられない。」を超えて、チームで成長する会社へ




会社を始めた頃は、ほとんどのことを僕が決めていました。

お客様への対応。
料金。
採用。
仕事の進め方。
何か問題が起きたときの判断。

難しい仕事があれば、自分がやる。

スタッフから相談を受ければ、その場で答える。

お客様から難しい相談があれば、自分が出る。

その方が速いし、確実でした。

今振り返っても、創業期はそれでよかったと思っています。

むしろ、小さな会社では、社長自身の力がそのまま会社の競争力になります。

0から1をつくる。

お客様を増やす。

社員を雇う。

資金繰りをする。

競争の激しい市場で生き残る。

先行きが不透明な中でも、会社を前に進める。

そこまで会社を育ててきた中小企業の社長は、本当にすごい。

プレイヤーとして見れば、超一流です。

だから自然と、

社長が考える。
社長が決める。
社員が実行する。

トップダウン型の組織になります。

僕は、トップダウンが悪いとは全く思っていません。

創業期や会社が大きく変化するときには、一人の強い意思決定で素早く進む方が強い場面もたくさんあります。

RICKも、そうやってここまで成長してきました。

ただ、会社が大きくなるにつれて、少しずつ景色が変わってきます。

社長の強さが、会社の成長上限になる

「所長、これどうしますか?」

「所長、ここまでやっていいですか?」

「所長、このお客様にはどう対応しますか?」

何かあるたびに、判断が僕のところへ戻ってくる。

僕が答える。

その方が早い。

だから、また次も聞かれる。

気がつけば、会社のさまざまな意思決定の最終通過点が自分になっている。

そこで、あるとき思いました。

僕が何でも決められることは、本当にこの会社の「強さ」なんだろうか。

会社の仕事量が、自分一人で判断できる量を超えれば、いくら自分が頑張っても限界があります。

そして、自分が答え続けている限り、自分以外に判断できる人も増えていきません。

会社をここまで成長させてきた社長の能力が、次の成長ではボトルネックになってしまう。

いわゆる、

オーナーズトラップ

です。

ただ、僕はこれを経営者の欠点だとは思っていません。

むしろ、

会社が次のステージまで成長したからこそ起こる問題

なのだと思っています。

「自分でやった方が早い」は、本当に早い

経営者なら、

「自分でやった方が早い。」

と思ったことが何度もあると思います。

実際、早いんです。

10分かけて説明して任せるくらいなら、自分で5分でやった方が早い。

失敗されて修正するくらいなら、最初から自分がやった方が確実。

相談されたときも、その場で答えを教えれば仕事はすぐに進みます。

これは間違っていません。

今日の仕事を終わらせるだけなら。

でも、

半年後。

1年後。

3年後。

まで考えると、話は変わります。

社長がやり続ければ、その仕事ができる人は増えません。

社長が答え続ければ、自分で判断できる人も増えません。

僕は最近、

目の前の仕事を早く終わらせることと、組織を強くすることは同じではない

と思うようになりました。

トップダウン型で、もう一つケアしたいこと

トップダウン型の組織には強みがあります。

判断が速い。

方向性がぶれにくい。

迷ったら社長に聞けばいい。

決まったことをしっかり実行すれば、仕事は進みます。

ただ、一つケアしなければならないことがあると思っています。

それは、

働く人自身が「自分は成長している」と感じられているか。

ということです。

仕事をする中で、

何かをやり遂げたという達成感。

自分の仕事を認めてもらえる承認。

「これは自分の仕事だ」と思える責任。

昨日までできなかったことができるようになる成長。

こうしたものも、人が前向きに仕事をするうえで、とても大切だと思っています。

ところが、

社長が全部考える。

社長が全部決める。

社員は言われたことを実行する。

という状態が続けば、

業務には詳しくなっても、

「自分で考え、自分で決め、自分でやり遂げた」

という経験は増えにくい。

僕は、ここがとても重要だと思っています。

「もっと主体的に」と言う前に

経営者をしていると、

「もっと主体的に動いてほしい。」

と思うことがあります。

僕自身もあります。

でも、

何をするかは上司が決める。

どうやるかも上司が決める。

重要なことは全部社長が決める。

少し危なそうになれば、上司がすぐ修正する。

そんな環境で、

「もっと主体性を持って。」

と言われても、なかなか難しいですよね。

主体性は、本人の性格だけの問題ではありません。

主体性を発揮できる構造を、会社側がつくれているか。

という問題でもあると思っています。

だから、

考える機会を渡す。

決める機会を渡す。

実行する機会を渡す。

結果を振り返る。

そして、成果が出たら一緒に喜ぶ。

「自分で考えた。」

「自分で決めた。」

「やってみた。」

「できた。」

その経験が積み重なると、少しずつ自信がついていきます。

そして、

「次はもっとやってみたい。」

と思えるようになる。

僕は、

達成・承認・責任・成長を奪わない組織をつくることが、能動的に前進するチームをつくる一つの鍵

なのではないかと思っています。

権限移譲で大切なのは「渡し方」

では、

「社長が仕事を手放せばいい。」

のでしょうか。

僕は、そんなに簡単ではないと思っています。

むしろ僕たち自身、

「もっと任せよう。」

と思って一気に任せたことで、現場を混乱させてしまった経験があります。

任された側からすると、

「どこまで自分で決めていいのか分からない。」

「何を基準に判断すればいいのか分からない。」

「何を期待されているのか分からない。」

思ったようにできず、自信を失ってしまうこともある。

一方で任せた側は、

「もっと自分で考えてほしい。」

と思っている。

お互い悪気はないのに、噛み合わない。

そこで僕たち自身が学びました。

権限移譲で大切なのは、どれだけ渡すか以上に、どう渡すか。

ということです。

業務と一緒に「判断軸」を渡す

仕事だけを渡して、

「ここからは自分で考えて。」

では、かなり厳しいと思います。

それまで経営者や上司が頭の中で行ってきた判断まで、突然求められるからです。

だから、

業務と一緒に、判断軸を渡す。

なぜ、この仕事をするのか。

何を優先するのか。

どこまでなら自分で決めていいのか。

どんな状態になったら相談してほしいのか。

何をリスクとして見るのか。

お客様に対して、何を大切にするのか。

そこまで共有していく。

僕は、

答えを渡すのではなく、考え方を渡す。

ことが大切だと思っています。

「今回はこうしてください。」

だけなら、その案件は解決します。

でも、

なぜそう判断したのか。

どこを見たのか。

何を優先したのか。

そこまで共有できれば、次に似た場面が起きたとき、自分自身で考えられる可能性が高くなります。

組織をつくるということは、

答えを知っている人を増やすことではなく、答えを考えられる人を増やすこと。

なのだと思います。

「期待・役割・責任・権限」を丁寧に合わせる

そして、権限移譲でもう一つ大切だと思っていることがあります。

期待・役割・責任・権限を丁寧に合わせていくこと。

です。

ここにズレが生じると、不満や不安につながります。

「そんなことまでやるとは聞いていない。」

「それは自分の仕事じゃないと思っていた。」

「任せたのに、やってくれない。」

「責任はあるのに、自分では決められない。」

「ここまで自分でできると思っていたのに、任せてもらえない。」

こういうことは、どちらかが悪いから起こるとは限りません。

多くの場合、

任せる側と任される側で、見えている役割が違う。

のだと思います。

何を期待しているのか。

どんな役割なのか。

何について責任を持つのか。

その責任を果たすために、どこまで自分で決めていいのか。

ここを丁寧に合わせる。

地味ですが、権限移譲の土台になる部分だと思っています。

プレイヤーとマネジメントは、まったく別の仕事

会社では、仕事のできる人がリーダーになります。

僕たちのような専門職では、特にそうなりやすい。

税務知識がある。

お客様対応ができる。

難しい案件にも対応できる。

だから、

「次はチームを任せよう。」

となる。

でも、

プレイヤーとして優秀であることと、マネジメントができることは、まったく別の能力

です。

僕たちは会計を学びます。

税法を学びます。

毎年変わる税制をキャッチアップします。

専門職として、学び続けることを当然だと思っています。

それなのに、リーダーになった瞬間、

「人を育ててください。」

「チームをまとめてください。」

「任せてください。」

と言われる。

ほとんど学んだことも、経験したこともないのにです。

これは少し無理があります。

マネジメントにも知識があります。

技術があります。

そして何より、

経験が必要です。

経営者も同じです。

会社をつくったからといって、自然に人を育てるのが上手になるわけではありません。

僕自身も、今も学び続けなければならないと思っています。

いきなり全部渡さない

そして、知識だけでは足りません。

最後は経験です。

僕たち自身、

「任せるなら思い切って任せよう。」

と一気に渡して、うまくいかなかったことがあります。

任された側が混乱する。

うまくできない。

自信を失う。

任せた側も、

「やっぱりまだ任せられない。」

となる。

これでは、お互いに良い経験になりません。

だから僕は、

スモールに任せる。

ことが大切だと思っています。

まずは考えてもらう。

次に、選択肢を出してもらう。

その次に、自分で決めてもらう。

実行する。

一緒に振り返る。

そして、少し大きなものを渡す。

思考する。

決める。

実行する。

振り返る。

その中で、

「自分で考えて決めても大丈夫なんだ。」

という成功体験を積んでもらう。

権限移譲は、

一度仕事を渡して終わるイベントではありません。

人が成長していくプロセス

なのだと思います。

「任せたい。でも任せられない。」には、もっとリアルな理由がある

よく、

「経営者が任せられないのは、本気で任せる気がないからだ。」

と言われます。

もちろん、そういう面もあると思います。

自分のやり方へのこだわり。

失敗への不安。

自分でコントロールしていたい気持ち。

でも、中小企業の現場はそれだけではありません。

経営者は本当は、

もっと経営に専念したい。

会社の未来を考える時間を増やしたい。

だから任せたい。

でも同時に、

これ以上仕事を渡したら、社員が疲弊するんじゃないか。

負担が増えて、反発されるんじゃないか。

辞められたら、本当に会社が回らなくなる。

そんなリアルな不安もあります。

これを全部、

「社長が手放せないから悪い。」

で片づけるのは、少し違うと思っています。

僕は、

権限移譲の前に、任せられる構造をつくらなければならない。

と考えています。

人がギリギリの状態では、健全な権限移譲は難しい

全員がすでに忙しい。

一人辞めるだけで仕事が回らない。

特定の人に顧客やノウハウが集中している。

そんな状態で、

「今日からマネジメントもお願いします。」

と言われたら、

本人からすると、

ただ仕事が増えただけです。

これは権限移譲ではなく、

負担移譲

になってしまいます。

人を育てる時間。

考える時間。

マネジメントする時間。

失敗しても立て直せる余裕。

新しいことに挑戦する余白。

組織を本気でつくるなら、こうした余裕が必要だと思います。

だから、権限移譲は「収益構造」の話でもある

ここは、僕が特に大切だと思っているところです。

会社に余裕をつくるには、人員が必要です。

管理職がプレイヤー業務を減らし、マネジメントに時間を使えば、その分の仕事を誰かが担う必要があります。

教育にも時間とお金がかかります。

つまり、

本気で権限移譲を進めるなら、収益構造まで見直す必要がある。

ということです。

今の売上。

今の単価。

今の仕事量。

今の人数。

全員が100%、あるいはそれ以上働かなければ利益が出ない会社で、

「もっと人を育てよう。」

「マネジメントに時間を使おう。」

と言っても、現実には難しい。

一定の余裕を持った人員配置でも利益が出る。

教育にも投資できる。

採用にも投資できる。

AIやシステムにも投資できる。

そして、次の成長に必要な利益も残る。

そんな利益獲得能力と収益構造が必要です。

だから僕は、

権限移譲は人事だけの話ではなく、

マネジメントだけの話でもなく、

経営モデルそのものの話

だと思っています。

「辞められたら困る」が強すぎる状態では、健全に任せにくい

もう一つ、中小企業には現実的な問題があります。

「あの人に辞められたら、会社が本当に回らない。」

という状態です。

本当は改善してほしいことがある。

もっと責任を持ってほしい。

役割を変えたい。

でも、

強く言ったら辞めてしまうかもしれない。

そうすると仕事が回らなくなる。

結果として、経営側も必要以上に遠慮するようになります。

これでは、期待・役割・責任・権限を健全に合わせていくことが難しくなります。

だから、

属人化を減らす。

人を育てる。

採用できる会社にする。

仕事を標準化する。

AIや仕組みを使う。

そして、利益を出す。

全部つながっています。

僕は、

「辞められたら困る」が強すぎる状態のままでは、健全な権限移譲は進みにくい

と思っています。

オーナーズトラップは、社長の欠点ではない

ここまで書くと、

社長が何でもやってきたこと自体が悪いように聞こえるかもしれません。

僕は、まったくそうは思っていません。

何もないところから事業をつくった。

商品をつくった。

お客様をつくった。

資金繰りをした。

社員を雇った。

競争に勝ってきた。

不確実な環境の中で、会社を守ってきた。

だから、社長が一番できる。

当然なんです。

会社が成長した理由そのものが、社長の圧倒的なプレイヤー能力だった。

でも、そのままのスタイルで会社がさらに大きくなれば、

いつか、

社長の能力そのものが、会社の成長上限になる。

だから、オーナーズトラップに入ったことは、

経営者がダメになったということではありません。

むしろ、

会社が次のステージまで成長したサイン

なのだと思います。

会社が変われば、経営者の仕事も変わる

創業期は、

自分が一番売る。

自分が一番働く。

自分が一番決める。

それでいいと思います。

でも、組織になってくると、経営者の仕事も少しずつ変わります。

自分が答えを出すことから、

答えを出せる人を増やすことへ。

自分が仕事をすることから、

仕事が回る構造をつくることへ。

自分一人が頑張ることから、

みんなが力を発揮できる環境をつくることへ。

そして、

目の前の仕事だけではなく、会社の未来を考える時間を増やしていく。

僕は、

それがプレイヤーから経営者へ変わっていくということなのだと思っています。

「最後に責任を持つ」と「全部自分で決める」は違う

会社の最終責任は経営者にあります。

僕もそう思っています。

任せた結果、何かあったとしても、最後は僕が責任を持つ。

そこは変わりません。

でも、

経営者が最後に責任を持つことと、経営者がすべてを決めることは違う。

判断する人を増やす。

経験してもらう。

失敗したら、一緒に振り返る。

必要なときは支える。

そして、最後は自分が責任を持つ。

その方が、働く人も思い切って挑戦できると思っています。

「最高の仲間」がいるだけでは、「最高のチーム」にはならない

僕たちは、

最高の仲間と最高のチーム

をつくりたいと思っています。

でも、

優秀な人を集めれば、自動的に最高のチームになるわけではありません。

一人ひとりが考えられる。

決められる。

挑戦できる。

失敗から学べる。

成長を感じられる。

そして、それを支える組織の余裕や収益構造がある。

そこまでつくって、初めてチームになるのだと思います。

僕たち自身も、まだまだ試行錯誤しています。

任せすぎて混乱させたこともあります。

いきなり任せすぎて、自信を失わせてしまったこともあります。

任せたつもりが、ただの丸投げになったこともあります。

逆に、

僕自身が口を出しすぎて、結局任せられていなかったこともあります。

14年間経営してきても、組織づくりは本当に難しい。

でも今は、

権限移譲とは、経営者が仕事を手放すことではない。

と思っています。

人が考え、決め、実行し、成長できる状態をつくること。

そして、

組織が自分たちの力で前へ進める状態を、丁寧につくっていくこと。

なのだと思います。

もし今、

「任せたい。でも、任せられない。」

と感じているなら、

経営者自身の覚悟だけを責めなくてもいいと思います。

業務と一緒に、判断軸まで渡せているか。

期待・役割・責任・権限は揃っているか。

小さな成功体験を積めるようになっているか。

マネジメントを学ぶ機会はあるか。

働く人が、達成・承認・責任・成長を感じられているか。

人を育てる時間と余裕はあるか。

そして、

その余裕を持っても、利益を出せる会社になっているか。

そこまで考えてみる。

権限移譲は、

単なる仕事の渡し方ではありません。

組織のつくり方そのものです。

会社をここまで成長させてきた「社長の力」を否定するのではなく、

その力を、

組織の力へ変えていく。

社長一人の力で成長してきた会社を、

チームの力で成長できる会社へ。

その変化こそが、会社が次のステージへ進むために必要なことなのだと思います。



監修:公認会計士・税理士 力丸 宣康
新日本有限責任監査法人を経て独立。現在、力丸公認会計士事務所所長、九州有限責任監査法人理事長。中小企業の税務・会計・財務・経営支援に取り組む。

 

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